1.廃棄フロンなどの塩化物を分解し、有用化合物を得るグリーンプロセスの開発

★Sustainable 持続可能な(社会)という流行キーワードをお聞きになったことがありますか。限りある資源、あるいはエネルギー(化石燃料等)をできる限り有効に使い、子孫に伝えていくテクノロジーを言います。これには、環境負荷をできる限り小さくして、極端にはゼロ・エミッション(排出物無し、あるいは非常に小さい負荷しか与えないテクノロジー)といわれる環境保護テクノロジーもそれに含まれるかと思います。

★CFCフロン(第1世代フロン)、すなわち含塩素フロンChloroFluoroCarbonは、人の健康を害さず、安定した化合物であるため、かって、自動車、冷蔵庫、住宅室内のエアコン冷媒、半導体の洗浄剤等100万トン/年以上使われていました。ただ、廃棄後、成層圏まで昇り、太陽の紫外線により塩素ラジカルを発生し、連鎖的にオゾン層を破壊するのでその製造は禁止されました。しかし、使用中の大量のCFCは残っており、その処理法が注目されます。塩素と炭素の結合エネルギーは大きく、それを壊すにはプラズマとか燃焼とかが言われていますが、ダイオキシンの発生問題等の可能性があり、決してきれいなプロセスとはいえません。

(1)アイディアと発見
★メタノールCH3OHにNaOHを溶かした溶液は、下に示すように透明な液です。含塩素フロンCFC12、すなわちCCl2F2を吹き込み低圧水銀灯を照射すると、中の画像のようにランプが輝きます。ランプを消すと右図のように白濁し、これはCFC12中のClがNaClとして除去されたことを示します。この光分解法は、西海ー佐藤によって発見された方法で、常温常圧下のマイルドな条件で含塩素化合物を分解できます。
☆どのようにしてこのアイディアを思いついたのでしょう?突然アイディアがひらめくように見えますが、そんなことはありません。普段の生活を情報源として思いつくものです。




実験装置図は次のようになります。
装置図

(2)社会的反響





(3)科学的探究
★では、CFC12(もっと広く含塩素化合物)は光分解して何が生成したのでしょう。
ここまでわかってみれば、物理化学的な探求することは難しくありません。あなたの学んだ知識がフルに活きます。知識の蓄積は創造性の重要な因子となります。CCl2F2 → CHClF2 → CH3OCClF2+NaCl
  CFC12  UV  CFC22      エーテル
中間生成物として現在広くエアコン冷媒として用いられているCHC22が得られます。これは、塩素原子を含んでいるのでオゾン層を破壊します。ただ、H原子を含み、成層圏に登る途中でかなり破壊されますので暫定的に現在用いられていますが、最終的には製造が禁止されます。Hを含みClを含まないHFC(たとえばHFC134a:何の略でしょう)は第2世代フロンと呼ばれ、冷媒として広く現在用いられています。しかし、温室効果が大きいのが欠点で、暫定的な冷媒と考えられます。しかし、上記プロセスの最終生成物であるフロロエーテルは、空気中で容易に壊れるので、オゾン層を破壊せず、かつ温室効果もありません。しかも、冷媒として用いることのできる蒸気圧を持っています。Oを含む化合物、アルコール、あるいはエーテルは第3世代フロンとして期待されています。

★結局、本法によればオゾン層破壊のために廃棄されるフロン類は、食塩と、フロロエーテルになり、溶媒のメタノールは反応器に戻されます。NaClはもとも海中にあったわけで、環境にやさしい、持続可能なグリーンプロセスができたことになります。

(4)企業化をめざして
★次のテーマはこれをどのような実用化プロセスを組むかです。

・上記実験装置の写真は次のようです。
HCFC22の連続処理プロセスベンチスケール.pdf

★企業化するとしたら次のプロセスフローチャートが考えられます。

(5)学会発表
★先輩達の発表予稿です。国内発表(和文)です。ぜひ一見してください。なお、修士課程に進学する人は、学会発表が目標の一つです。
ETHER.pdf へのリンク

★次に示すのは国際会議での発表原稿(ポスター)です。あなたもトライしてみませんか。そのためには、時には退屈な、時には絶望を感じ、そして常に孤独と戦い、卒論、修論を作成して結論を得ることが重要です。そして、多少の語学力を。博士課程に進学する人は、国際会議での発表が目標の1つです。Students be ambitious!
PI2ポスター